大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)130号 判決 1989年9月22日

原告 カール・ツアイス株式会社

右代表者代表取締役 ハインツ・シュミット

右訴訟代理人弁護士 中町誠

被告 東京都地方労働委員会

右代表者会長 古山宏

右訴訟代理人弁護士 加藤眞

右指定代理人 高木規夫

<ほか一名>

被告補助参加人 日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部

右代表者執行委員長 藤芳満男

被告補助参加人 総評全国金属労働組合東京地方本部カールツァイス支部

右代表者執行委員長 遠山勝美

右補助参加人ら訴訟代理人弁護士 五百蔵洋一

同 山口広

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が都労委昭和六一年不第八六号事件について昭和六二年九月一日付けでした命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、補助参加人らの申立てにより、都労委昭和六一年不第八六号事件について、昭和六二年九月一日付けをもって別紙のとおり救済命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令書の写しは、同年一〇月一日原告に交付された。

2  しかしながら、本件命令は、以下のとおり違法である。

(一) 被告は、本件命令主文第1項において、同項の記(1)ないし(3)の事項について将来昭和六〇年五月一六日付け協定書をもって解決ずみであるとして団体交渉を拒否してはならない旨命じている。

将来の不作為を命じることができるのは、過去にそのような不当労働行為に該当する事実が存在し、使用者が将来同じ行為を繰り返すおそれがある場合に限られる。

しかるところ、原告は、右(2)及び(3)の事項につき昭和六〇年五月一六日付け協定(以下「五・一六協定」という。)をもって解決ずみであるとの理由で団体交渉を拒否したことはなく、補助参加人らもこの事実を認め、右(2)及び(3)の事項については、単にこれが補助参加人総評全国金属労働組合東京地方本部カールツァイス支部(以下「支部」という。)「組合員の重大な労働条件の変更であることを認め、直ちに団体交渉に応じなければならない。」との救済を求めたにすぎない。

したがって、本件命令のうち右(2)及び(3)の事項につき五・一六協定をもって解決ずみであることを理由とする団体交渉の拒否を禁じた部分は、裁量権を逸脱したものであるから違法である。

なお、命令の内容は主文に明示されたものに尽き、理由中の判断はあくまで主文の命令を出すうえでの理由の開陳に過ぎず、また、労働委員会規則四三条二項には、救済命令の主文につき「請求にかかる救済の全部若しくは一部を認容する旨及びその履行方法の具体的内容又は申立てを棄却する旨」と明確に定められており、右主文に違反すれば過料又は刑罰の制裁が予定されているのであるから、主文それ自体での特定性が厳格に要請されていると解すべきであり、被告が主張するように、理由中の判断をもって、命令の主文を事実上訂正することは許されない。

(二) 被告は、本件命令において、前記(一)のとおり命令しながら、その理由において、主文第1項の記(2)及び(3)の事項につき原告が五・一六協定をもって解決ずみであるとの理由で団体交渉を拒否しているとは判断しておらず、主文と理由に明白な齟齬がある以上、本件命令主文第1項は取り消されるべきである。

(三) 被告は、本件命令において、五・一六協定について、「その他要求事項」とは、回答書第1項では回答されていない事項(諸手当のうち、住宅手当と勤続手当)であると認定しているが、五・一六協定の1項(2)に「支給対象、考課、その他等については従来どおりとする。」と明記され、住宅手当と勤続手当が実施されないことは「その他等については従来どおりとする」の部分で明確にうたってあるのであって、2項の「その他要求事項については現行どおりとします。」とは、従来継続審議として積み残してきた問題一切を現行どおりとして全面解決したという趣旨である。

このように、被告は、五・一六協定の解釈を誤っており、誤った解釈を前提とし、原告の解釈を非難して不当労働行為と認定しており、被告の本件命令は違法である。

(四) 原告は、補助参加人らの基本要求について、解決ずみであるとの解釈を棚上げにして、団体交渉に臨んでおり、また、補助参加人らが右要求を打ち切っている点を考え併せると、既に被救済利益を欠くものといわざるをえず、本件命令はこの点を看過した違法がある。

(五) 被告は、本件命令において、組合が上部組織に加盟していても支部が企業内組合である以上は組合事務所の貸与その他の便宜供与をするのが当然であるといわんばかりの論調で原告の対応を非難する。しかしながら、原告の立場は、後記(六)の(3)記載の見解に立脚するものであり、それ自体正論であって、併存組合の一方に組合事務所の貸与や便宜供与があるといった特段の事情のない本件では、右非難は、被告の独善的な見解の一方的な押しつけにほかならず、その裁量権を逸脱した違法がある。

(六) 本件命令主文第1項記載の団体交渉事項につき、以下のとおり団体交渉の中で回答ずみ、あるいは見解の相違による行き詰まりの状態にあり、これを専ら原告の団交拒否あるいは不誠実団交であるとして不当労働行為にあたると認定する本件命令は事実認定を誤った違法がある。

(1) 組合役員の配置転換についての同意要求

原告は、当初から、同一事業所外への支部三役の配置転換については組合に事前通知をする旨の対案を提示し、その後の団体交渉においてもこれを維持している。そして、原告は昭和五九年一〇月一八日の団体交渉において、組合側からの事前通知は直前では困るとの要請について、例えば五分前に通知するような非常識なことはしない旨言明もしている。

しかし、補助参加人らは、右対案を拒否し、当初の要求に固執し、平行線のままになっている。

したがって、原告に右要求に対する団交拒否がないことはもちろん、極めて常識的な対案を出し、かつその運用についても補助参加人らの要請を受け入れているのであるから、原告が不誠実な団体交渉をしたことにはならない。

(2) チェック・オフ制実施要求

原告は、右要求に対し、一貫して経費援助を禁ずる労働組合法の精神からいって便宜供与は本来望ましいものではないとの立場で拒否をしており、一連の団体交渉において右拒否理由を十分説明している。

原告の右拒否理由は正論であって、団交応諾義務は、相手の要求に応じたり譲歩する義務まではないのであるから、原告の右拒否を不当労働行為ということはできない。

(3) 組合事務所、組合掲示板設置要求

原告は、右要求に対し、会社の施設は専ら企業経営のためにのみ存するのであって、「利用の必要性が大きいことゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受認しなければならない義務を負うとすべき理由はない。」(最高三小昭和五四年一〇月三〇日判決・民集三三巻六号六四七頁)との見解及び経費援助を禁ずる労働組合法の精神から、便宜供与は望ましくないとの考えに立脚し、一連の団体交渉において補助参加人らに明解に内容を説明し、例えば労働省通達昭和三三年六月九日労発八七号の解釈をめぐる論争等をもしている。

本件命令は、原告が「支部の会社従業員で組織する労働組合としての側面を踏まえたうえで、これに対し便宜供与を認めるべきか否かないしはどの程度認むべきかに関する応答を一切しておら」ないことを根拠として、原告の対応を「誠実性を著しく欠く態度」と断じている。

しかし、原告の前記見解は、当該組合が横断的組合であろうと企業内組合であろうとを問わず妥当する議論であって、特に、「支部の会社従業員で組織する労働組合としての側面を踏まえたうえ」議論する意味はなく、また、それを踏まえた応答をしないことを不誠実といわれることはない。

また、本件命令の右説示が、企業内組合にあっては当該企業の物的施設を利用する必要性が大きい事情を加味した対応をせよというのであれば、前記最高裁判決の判示に反するばかりでなく、団交応諾義務が、相手の要求を受け入れたり、譲歩する義務まで含むものではないとの大原則に反する。

しかも、原告は、組合の活動上必要な会議室等の使用については、支部結成直後から業務上等支障のないかぎりこれを許可し、使用させてきている。したがって、原告の対応に権利濫用と認められるような特段の事情もない。

(4) 電話、会議室の利用要求

会議室の利用については、原告は業務上等支障のないかぎりこれを許可しており、他の要求項目の団体交渉がもめたために協定化に至らないにすぎない。

また、電話利用に関しては、原告は、業務用の電話については業務上外の利用を断っているが、私用のために本社正面玄関に電話が設置されており、組合用務を処理するのに何ら支障はない。

したがって、原告の対応に不当労働行為とされる点はない。

(5) 昭和六一年七月一日付け人事異動中組合員の事業所間の配置転換の必要性及び期間について

原告は、団体交渉において、交渉担当委員の訴外中村晃労務部長(以下「中村部長」という。)が、その必要性について、基本的には同一ポストの勤続年数も考慮して会社の活性化のためにポストを替わってもらう目的である旨説明を加えており、個々の者の配置転換の理由については、個々人のプライベートな事情、理由等があり、これを団体交渉の場で開示することは不可能であり、個々人には上司から業務上の必要性について個別に伝えてある旨説明し、また、右期間の定めはないと明確に答えている。

したがって、原告の対応は、不当労働行為にあたらない。

(6) 都市手当新設要求

原告は、右要求に対し、全社的に賃金体系が同一であるのに、他方から東京への配置転換対象者のみ優遇することは、東京在勤者に対して不平等となる旨正当な反論を行っている。補助参加人らは、右反論にもかかわらず、右要求に固執し、交渉が平行線の状態にある。

右のとおり、原告の対応は、何ら不当労働行為に該当しない。

(7) 単身赴任手当に関する要求

原告には単身赴任手当なる名称の手当はなく、別居手当が正しい名称である。しかるに、組合がこの誤りを訂正しようとせず、原告の団交委員がこれをとがめたことから、団体交渉が紛糾するにいたった。

しかし、団体交渉は、元来双方の力を背景にした交渉ごとであって、多少の紛糾やかけひきは不可避である。したがって、多少右要求をめぐって混乱が生じたことにとらわれて、本件団体交渉が不正常であるとか、不当労働行為であるとか判断するのは、あまりに団体交渉の実際を知らない近視眼的判断である。

(8) 事前協議等の諸要求

原告は、事前協議、同意約款締結ができない理由について、そもそも人事権は企業の固有権であり、更に、企業は生きものであり、効率的で迅速な運営が必要となる場合が多く、右のような約款はそれらを阻害するので、締結する意思がない旨説明を加えている。

右拒否理由は、企業として当然の内容であり、原告の右対応を不当労働行為とする理由はない。

3  本件命令の「第一 認定した事実」に対する認否は、次のとおりである。

(一) 1の(1)及び(2)のうち補助参加人らの存在は認め、その余の事実は知らない。同(3)の事実は認める。

(二)(1) 2の(1)のうち、第一段の事実は不知、第二段の事実は概ね認める(ただし、要求事項③は、団体交渉及びそれに伴う暫時の協議の時間(例えば、書記長が労働協約の実施について行う労務担当者などとの協議など)は賃金カットしないことであり、同⑥は、組合の日常活動における電話利用、会議室の利用についての便宜をはかることであった。)。

(2) 同(2)のうち、「組合は、団交開催が六月初旬になりそうなこともあって」の部分は不知、組合が要求書を会社に提出したのが五月二二日であることは否認し、その余の事実は認める。組合は五月二二日付け文書を同月二八日会社に提出した。

(3) 同(3)の事実は概ね認める。

(4) 同(4)のうち、組合が多少人数の減員案を示したとの点を否認し、組合が「やむをえず事実上会社の意向に従う形で」との部分は不知、その余の事実は認める。

(5) 同(5)のうち、「そして、交渉においても、…述べるにとどまった。」の部分及び「その際中村部長が、…妥結することに決定した。」の部分はいずれも否認し、その余の事実は概ね認める。

(6) 同(6)のうち、「(以後組合の…繰り返された)」の部分及び「会社は、先の「回答及び申入書」…進展をみることなく終わった」の部分はいずれも否認し、「前記「継続審議」事項は…精力をそそいだこともあって」の部分は不知、その余の事実は認める。

(三)(1) 3の(1)及び(2)の事実はいずれも認める。

(2) 同(3)のうち、「これに対し組合は、…譲らなかった。」の部分は否認し、「組合は、協定書…同一であることを確認したうえ、」の部分は不知、その余の事実は認める。

(四)(1) 4の(1)のうち、「組合は、この申入書を…というのみであった。」の部分は否認し、「とかくするうち…秋闘要求は先送りとなった。」の部分は不知、その余の事実は認める。

(2) 同(2)のうち、「今人がいないので、…電話で連絡してきた」の部分は否認し、団交申し入れに至る組合の動機は不知、その余の事実は認める。

(3) 同(3)の事実は認める。ただし、組合の昭和六一年七月一日付け申入書には、「今回の人事異動に関して、組合との協議が終了するまでは貴会社は、これを保留する事を要求致します。」との要求事項が明記されていた。

(4) 同(4)のうち、配転命令を受けた組合員が赴任に際し異議をとどめていたことは否認し、その余の事実は認める。

(五)(1) 5の(1)ないし(3)の事実はいずれも認める。

(2) 同(4)の冒頭部分のうち「約三〇分」との点を否認し、その余の事実は認め、①及び②の事実はいずれも否認し、③の事実は認め、④のうち単身赴任手当の点を否認し(別居手当の誤りである。)、その余の事実は概ね認め、⑤のうち「これに対し……突っぱねた。」の部分を否認し、その余の事実は認め、⑥及び⑦の事実はいずれも認め、⑧の事実は知らない。

(3) 同(5)の冒頭部分のうち「組合にとって何ら見るべき内容がないものであったため」の部分は不知、その余の事実は認め、①のうち「中村部長は、…と答えた。」の部分、「出していないと突っぱねた」の部分、「同部長は、「そんなことは言えない。」」の部分及び「同部長は怒気を含んだ口勿になり」の部分はいずれも否認し、その余の事実は概ね認め、②のうち「組合は、「全金でも…どこにもない。」」の部分は否認し、その余の事実は認め、③の事実は知らない。

(4) 同(6)の事実は認める。

4  よって、原告は、本件命令の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

(一) 同2の(一)のうち、原告が本件命令主文第1項の記(2)、(3)の事項について五・一六協定をもって解決ずみであることを理由として団体交渉を拒否してはいないことは認め、その余は争う。救済命令の趣旨は理由と併せて具体的なものとして理解されれば足りるのであって、被告は、本件命令の理由において、原告が五・一六協定をもって解決ずみであるとの理由で団体交渉を拒否しているとは認定しておらず、本件命令の主文と理由を併せ読めば、同命令主文第1項における「昭和六〇年五月一六日付協定書をもって解決ずみであるとして団体交渉を拒否してはならず」との文言がかかるのは、同主文第1項の「下記の事項」のうち(1)に限られることが明らかであるから、原告主張のような違法はない。

(二) 同(二)は争う。

(三) 同(三)の事実は否認する。支部は、昭和六〇年三月一一日付け春闘要求書において、基本要求を掲げておらず、これに対する原告の同年四月一五日付け回答書には、右要求書に対し回答する旨記載されていること、同要求書をめぐる二回の団体交渉においても、同要求書記載の要求項目以外の事項について話し合われていないこと及び右回答書の内容と五・一六協定の内容が同じであることから、基本要求事項が、五・一六協定の第2項により解決したとの原告の主張は理由がない。

(四) 同(四)は争う。補助参加人らは、昭和六二年二月一九日、同月二六日の二回の団体交渉においても何ら進展がないため団体交渉を打ち切ってこれら交渉内容について被告の判断を求め、その後同年五月二八日付けで「求める救済内容」に誠実団交を追加変更しているのであるから、補助参加人らが不当労働行為救済申立てを放棄していないことが明らかであって、被救済利益に欠けるところはない。

(五) 同(五)の事実は否認する。

(六) 同(六)は争う。

3  本件命令の理由は、別紙命令書理由欄記載のとおりであり、被告の認定した事実及び判断に誤りはない。

三  補助参加人らの主張

1  五・一六協定について

被告主張の事実に加え、右協定締結後補助参加人らの従来の継続協議事項を含めた要求書に対し、原告は一か月半も経ってようやく協定ずみの事項があるとの回答をしてきており、しかもその回答には具体的に五・一六協定で解決したとの記載はなく、原告が五・一六協定で解決ずみと言い出したのは、問題が顕在化して一年以上もたった昭和六一年七月一日であることからも、基本要求事項が五・一六協定で解決ずみであるということはできない。

2  便宜供与問題について

原告は、長い団交拒否の後、被告での審査の進展を前に昭和六二年二月一九日及び同月二六日に団体交渉を行ったが、原告としては従来の団交拒否による遅れを取り戻すため誠実な回答をなすべきであった。しかるに、原告は、団体交渉を開催する旨の通知の中で解決ずみとの文言を示し、右二月一九日の団体交渉の冒頭「現行通り」「解決ずみ」との文言に終始する回答書を読み上げ、次いで団交の上程問題があった後、主題に入るときに中村部長が本日団交を開いたので都労委の件は終了したと述べ、補助参加人らが組合事務所と掲示板の貸与について具体的な意見を述べ、かつ原告に十分なスペースがあること等を具体的に指摘したのに対し、原告は、便宜供与は組合の甘えである等の組合無視の発言を行い、具体的な回答をしなかった。

このように、前記二回の団体交渉における原告の発言は、団体交渉を行ったという形式を作るためのものであって、物事の解決をめざした発言ではない。原告があたかも施設管理に関する一般論を述べたかのような原告の主張は、事実を歪曲したものである。

3  原告は、前記2の二回の団体交渉において、配置転換問題に関し、配置転換の必要性につき活性化の具体的内容を答えようとせず、具体的部署の配置転換の必要性についても会社の秘密であるから答えられないというのみであり、社員は将棋の駒であって会社が自由に動かせる存在であるという人もなげな発言をする始末であり、また、単身赴任手当についても、組合員が七万円の単身赴任手当を支給されていたことを例にして、減額された理由を問いただされても、単身赴任手当の存在を否定し、右手当が何であるかも答えず、結局減額の理由を答えなかったのであって、原告のこのような対応は、不誠実な団体交渉である。

4  原告の前記二回の団体交渉における対応は、不誠実団交であって、不当労働行為に該当する。

すなわち、原告は、第一回の団体交渉の冒頭に回答書を読み上げ、現行どおり、業務上の必要性、組合がとやかく言う筋合いのものでないなどと断言し、二回の団体交渉を通じてこの態度を一切変更する姿勢を示さなかったものであり、合意形成の意思のないことを最初から明確に表明し、合理性を疑われる回答への十分な説明をせず(単身赴任手当に関する態度等)、原告の主張の根拠を具体的に説明し、裏付けとなる資料を示して反論することもなく(組合事務所、掲示板に関する態度等)、組合の提案に対し検討するという態度ではなく、これを説得する態度もない(組合掲示板に関する態度)。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1(本件命令の存在)の事実は当事者間に争いがない。

二1  当事者間に争いがない事実、《証拠省略》を総合すると、以下の各事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(一)  当事者

(1) 原告は、ドイツ連邦共和国にその本拠を置くカール・ツアイス財団が全額出資して昭和三六年に設立した光学機器の輸出入、販売等を業とする会社であり、肩書地に本社を、大阪府ほか三か所に営業所を、本社近くにレンズ研磨の工場を有する。補助参加人らの被告に対する後記救済命令申立て当時における原告の従業員は約二三〇名であった。(右事実は当事者間に争いがない。)

(2) 補助参加人日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部(以下「地本」という。)は、訴外日本労働組合総評議会全国金属労働組合(以下「全金」という。)に所属する東京都内の組合員で構成する労働組合であり、支部は、原告の従業員である地本所属の組合員で構成する労働組合であり、支部の後記救済命令申立て当時の組合員数は、約九〇名であった(地本及び支部の存在は当事者間に争いがない。以下、地本と支部を合わせて「組合」ということがある。)。

(二)  支部の結成後の労使関係

(1) 原告には従前労働組合がなかったが、原告の従業員約一五〇名が、昭和五九年五月九日労働組合を結成し、同時に地本に加盟してその支部になった。

(2) 支部は、同月一〇日、原告に対し、組合結成通知書を提出するとともに、同書面をもって、①ユニオン・ショップ協定の締結及び支部を唯一交渉団体として認めること、②組合役員の配置転換につき組合の同意を得ること、③団体交渉及びそれに伴う暫時の協議時間中の賃金保障、④チェック・オフ制の実施、⑤組合事務所、組合掲示板の設置、貸与(組合掲示板については、本社、別館、各支店)、⑥組合の日常活動における電話、会議室の利用の便宜、という組合活動に関する基本要求(以下、後記(四)(2)で認定の組合の昭和六一年六月一七日の申し入れにかかる事項と併せて「基本要求」ないし「基本要求事項」ということがある。)を提出し、これに関する団体交渉を申し入れた(右事実のうち、要求事項③及び⑥を除き当事者間に争いがない。)。

(3) 原告は、翌一一日、組合に対し、団体交渉はドイツ本社との関係もあるので六月初旬を予定しているとの回答書を渡すとともに、組合員の範囲について申し入れをした。組合は、同年五月二二日付けの賃金引き上げと三六協定の締結を求める要求書を原告に提出した。(原告が右回答書を渡し、申し入れをしたこと、組合が右要求書を提出したことは当事者間に争いがない。)

(4) 原告は、支部に対し、同月二八日、団体交渉の日時を同年六月一一日と通知し、同月六日には団体交渉の場所、議題等を通知した。原告は、右通知書において、団体交渉の場所をホテルニューオータニの一室とし、議題を前記五月一〇日付け及び同月二二日付け書面の要求事項の趣旨説明とし、出席者を双方五名程度に調整して少人数で行うこととし、原告の出席者五名の氏名を明らかにするとともに、傍聴は一切認めないことを通知した。

これに対し、組合は、同年六月八日付け文書で、団体交渉の日時については応諾したうえ、場所は今回限り社外とすることを受け入れるとし、出席者については氏名を特定して地本及び支部の役員一二名を主張し、議題については既に団体交渉を求めてから日時が経過していることから組合の趣旨説明にとどまらず要求事項に対する原告の回答がなされるべきことを要求した。(以上の各事実は概ね当事者間に争いがない。)

(5) しかし、団体交渉の出席者の人数をめぐって見解が対立したまま折り合いがつかず、団体交渉が開かれないまま推移した。この間、原告は五名との主張を変えず、組合は予定された三、四回の団体交渉の期日に一二名のメンバーで会場に赴いたが、折り合いがつかなかった。

その後、組合がやむをえず六名で団体交渉に臨むこととし、組合が団体交渉の申し入れをしてから四か月も経過した同年九月一二日ようやく第一回の団体交渉が開かれた。

この間、支部は、同年八月二日、原告に時間外手当未払分の支給に関する要求書を提出した。(以上のうち組合がやむをえず交渉人員を六名にしたことを除き当事者間に争いがない。)

(6) 同年九月一二日に開かれた第一回の団体交渉は、午前九時ころから正午過ぎまで社外で行われた。その席上、原告は、組合の前記五月一〇日付け、同月二二日付け及び八月二日付けの各要求に対する回答及び昭和五九年度特別賞与の支給月数の申し入れ(支部結成後毎年原告が申し入れ)を内容とする「回答及び申入書」と題する書面を手交したうえ、これを読み上げた。

右書面の内容は、要旨次のとおりである。

前記五月一〇日付け基本要求の①に対しては、支部の自主性を尊重する意味から加入、脱退は従業員の自由意思によるものとし、組合員になれない者の範囲に関する申し入れをし、唯一の交渉団体であることは認められない、同②に対しては、支部三役の同一事業所外への配置転換は事前通知する、同③に対しては、団体交渉に関する協定が成立した場合には、その協定手続きに基づいた団体交渉における賃金を保障する、同④に対しては、支部の自主性を尊重する意味から支部自身で解決すべきである、同⑤に対しては、組合活動に対する便宜供与に属するものであり、本来会社からのサービス、恩恵であって組合活動の企業への依存であるから、組合の権利と化するものではなく、支部の自主性を尊重する意味から便宜供与は避けたいし、全金という企業外の組合が自主的に解決すべきである、同⑥に対しては、従来から業務以外の使用を一切断っているので現行どおりである。前記五月二二日付け要求に対しては、平均五・一パーセントの昇給、交通費の増額以外は現行どおりである。前記八月二日付け要求に対しては、原告から指示、承認された場合は今後とも法及び就業規則の定めにしたがって支給する。(以上の各事実は概ね当事者間に争いがない。)

その後、交渉に入り、組合が右五月一〇日付け基本要求について「会社と組合がうまくやっていくうえで組合事務所、掲示板を貸与してしかるべきではないか」などと追及しても、原告は、前記回答書の内容を出る発言はなく、回答書にあるような一般論を述べるにとどまった。

また、原告は、この団体交渉のなかで、九月末が決算期なので今日妥結しなければ昇給、特別賞与は零であるなどと強行姿勢を示したが、組合は、この日が始めての団体交渉ということもあって原告の説明に追いまくられたが、翌日もう一度話し合うということでその日は終わった(右事実は当事者間に争いがない。)。

(7) 翌一三日、組合と原告各二名による話し合いが持たれたが、原告側が、当時東京都地方労働委員会に係属していた組合員市田の雇止めの問題を原告に一任しなければ特別賞与は零であるとか、基本要求を棚上げにすれば昇給を五・三パーセントに、そうでなければ五・二パーセントにするなどと申し入れた。組合は、右申し入れを一旦は断ったが、その日のうちに原告から、市田問題は一任しなくてもよいが昇給は当初の回答どおり五・一パーセントとし、特別賞与は一・五か月分支給する旨の連絡があったため、組合は、やむをえず妥結することを決定した(一三日に話し合いが持たれたことは当事者間に争いがない。)。この結果、原告と組合は、同日、前記九月一二日付けの「回答及び申入書」に「本回答及び申入書のうち第一項については継続審議するものとし、その他は当事者双方すべて合意した。」と添え書きしたうえ(右の第一項とは、前記五月一〇日付けの基本要求に関するものである。)、署名、押印した(以下「九・一三協定」という。右事実は当事者間に争いがない。)。

(8) 支部は、基本要求について継続審議となっていたため、同年一〇月二日、同要求及び時間外、休日労働の協定化を議題とする団体交渉を同月九日又は一一日に行いたいと申し入れた。これに対し、原告は、組合の希望する日は業務の都合で開催できないので同月一八日にしたいと提案し(以後組合の団体交渉期日申し入れに対し、原告が別期日を申し入れることがほとんどであった。)、同日団体交渉が行われた。この団体交渉において、支部は、社内に労働組合が結成された以上、組合事務所、掲示板などの貸与は行ってしかるべきであると要求し、また労使関係一般におけるこの種の問題に関する慣習などにも触れた。(以上の各事実は概ね当事者間に争いがない。)原告は、これに対し、前記の「回答及び申入書」と同様全金にやってもらえばいい、組合の自主性を尊重するから便宜供与はしない、旨の発言に終始し、この日の議題は進展を見ることなく終わった。

以後、支部と原告との間では、五九年年末一時金、六〇年春闘、同年夏季一時金交渉等が行われたが、前記九・一三協定により継続審議とされた事項は組合が上記交渉に精力を注いだこともあって、交渉議題には上がらなかった。(右各交渉等が行われたが、継続審議事項が議題に上がらなかったことは当事者間に争いがない。)

(三)  六〇年春闘に関する団体交渉

(1) 組合は、昭和六〇年三月一一日六〇年春闘要求書を原告に提出し、組合提案の別表にしたがった賃金の是正、平均一一・二パーセントの賃上げ、諸手当(住宅手当の新設、家族手当の増額、勤続手当の新設)を要求事項としてあげ、また、回答日を同月二五日と指定した(右事実は当事者間に争いがない。)。

(2) 原告は、同年四月一五日、組合に対し、次の内容の回答書を手交した。

原告は組合の三月一一日付け要求書に対し慎重に検討した結果、事務折衝でも伝えたとおり誠意をもって次のとおり回答する。

1  昭和六〇年度昇給は次のとおりとする。

(1)  従業員一人当たり平均五・〇パーセント相当を昇給する。配分は次のとおりとする。

(イ) 基本給+職能給の平均三・八パーセント

(ロ) 家族手当増額

配偶者三〇〇〇円を六〇〇〇円に増額、その他の扶養者二〇〇〇円を三〇〇〇円に増額

(一人当たり基本給+職能給の平均〇・七七パーセントに相当)

(ハ) 是正分(一人当たり基本給+職能給の平均〇・四三パーセントに相当)

(2)  支給対象、考課、その他等については従来どおりとする。

(3)  昇給の実施時期については四月度よりとする。

2  その他の要求事項については現行どおりとする。

(以上の事実は当事者間に争いがない。)

(3) 前記回答を受けて、支部と原告は、同年四月一九日及び同月二四日に団体交渉を行ったが、原告は、昇給、手当、是正と組合の要求に則って解答した、昨年九月の昇給後を基準にすれば、それにプラス一万五〇〇〇円であり、まさに大盤振舞だ、住宅手当、勤続手当を支給する考えは全くない、と発言した。この間組合は時限ストを実施したが原告から譲歩を得られず、結局右の回答書どおりで妥結する旨原告に通告した。(以上の各事実は当事者間に争いがない。)

そこで、原告は、同年五月一六日、前記四月一五日の回答書の前文を削除しただけの協定書を用意し、組合と調印することとしたが、組合は、協定書と前記の回答書とを照らし合わせ、回答書本文と全く同一であることを確認したうえ、格別の質疑もせず、短時間で協定書の調印をした(以下、この協定を「五・一六協定」という。組合が協定書と回答書が同一であることを確認したとの点を除くその余の事実は当事者間に争いがない。)。

なお、前記二回にわたる団体交渉及び調印時には、基本要求事項に関しては全く話題とならず、組合も、基本要求事項を要求してはいなかった。また、前記回答書及び協定書の「その他要求事項」をめぐるやりとりもなかった。

(四) 本件団体交渉拒否の経過

(1)  支部は、六〇年春闘、夏季一時金交渉が一段落したこともあって、昭和六〇年九月一八日、原告に「職場環境の改善及び基本的な権利、生命と健康を守るため」と題する一七項目にわたる秋闘要求を提出した。右要求項目には、前記継続審議となった事項の一部である組合事務所、掲示板等の貸与などが含まれていた。(右各事実は当事者間に争いがない。)

原告は、同月三〇日、右要求事項につき現在慎重に検討中であるからしばらくの期間を要する旨回答し、一か月後の同年一〇月二九日、慎重に検討した結果要求事項中には既に協定ずみの事項があるので一旦要求書を撤回のうえ要求事項を整理して改めて要求書を提出するよう申し入れた(右事実は概ね当事者間に争いがない。)。組合は、この申入書に対し、協定ずみ事項が何を指すのか不明のため原告に説明を求めたところ、原告の大久保広司人事課長は、九・一三協定書を示し、継続審議事項として協定している旨説明し、組合の団体交渉の申し入れに対し、要求書の書き直しを再度求めた。

しかし、六〇年冬季一時金、次いで六一年春闘交渉に入り、組合はこれらの交渉に専念したため、右秋闘要求は先送りとなった。

(2)  六一年春闘が一段落した昭和六一年六月一七日、支部は、先に原告から継続審議事項の一部を含む六〇年秋闘要求について再整理を求のられていたままになっていたため、継続審議とされた基本要求事項のうち急務のものとして、組合事務所、掲示板の設置、貸与、組合役員の配置転換についての組合同意、チェック・オフ制の実施、組合活動のための電話、会議室利用についての便宜供与を取り上げ、これらを議題とする団体交渉を申し入れた(団体交渉申し入れの動機を除き当事者間に争いがない。)。しかし、原告が同月二三日、「今人がいないので二四日の団交は受けられない」旨電話で連絡してきたため、支部は、同月二六日、原告の都合のよい団体交渉開催日時を早急に連絡するよう文書で申し入れたが、原告は、同年七月一日になって、六月一七日付け申し入れの件は五・一六協定をもって解決ずみであると回答した(原告が「今人がいないので二四日の団交は受けられない」と連絡した点を除き当事者間に争いがない。)。

(3)  また、原告は、同日人事異動を発令したが、この対象者の中に、本社勤務の組合員二名(うち一名は執行委員)と大阪営業所勤務の組合員二名の交換配転が含まれていた。支部は、同日付け申入書をもって、原告に対し、右人事異動が組合との事前協議なしに原告が一方的に決定したことを非常に遺憾である旨述べ、即刻団体交渉を行うよう申し入れた。しかし、原告は、同日付けで、支部の申し入れが人事異動に当たって事前協議を求められたものと理解する、組合役員の異動については、五・一六協定で現行どおりとすることで解決ずみであり、また、人事についての協議約款や同意約款もないので、今回の人事異動について事前協議する考えは全くないと回答した。(以上の各事実は当事者間に争いがない。)なお、右申入書には、今回の人事異動に関しては、組合との協議が終了するまでは、これを保留することを要求する旨の記載がある。

(4)  支部は、原告が団体交渉を拒否したため、同月七日、基本要求と人事異動に関する団交拒否について別々に反論を加えて原告に対し再度団体交渉を即刻行うよう申し入れた。右反論は、基本要求については、五・一六協定は六〇年春闘要求についての協定書であり、他の要求に対しては適用されるべきものではなく、仮に協定ずみであるとしても基本要求については九・一三協定で継続審議という申し合わせであって、原告には団体交渉を拒否する根拠はないと主張し、原告がいう解決ずみとは何を指すのか具体的に回答するよう釈明を求め、また、人事異動については、五・一六協定に関し右と同様の主張をしたうえ、発令後に団体交渉を申し入れているのであるから事前協議を求められたとする原告の解釈は誤りであり、人事異動に関する協議、同意約款がないことは団体交渉の申し入れを拒否する理由とならない、というものであった。

これらの支部の申し入れに対しても原告から回答がなかったため、支部は、同月一〇日再度団体交渉を申し入れた。(以上の各事実は当事者間に争いがない。)

(5)  原告は、同月一四日、基本要求については解決ずみであり、また、今回の人事異動にともない支部所属の従業員の労働条件に変更があるのであれば、具体的な申し入れを待って交渉の対象事項についてのみ交渉するにやぶさかでない旨回答した。そこで支部は、同月二四日、人事異動に関し、ア組合と事前に協議し、本人の同意を得ること、イ執行委員の異動に関しては、組合の同意を得ること、ウ人事異動の規約を明文化すること、エ今回の人事異動殊に単身赴任をせざるをえない者についての異動の必要性を具体的に説明すること、オ営業所から東京へ転勤になった者に物価に見合った「都市手当」を支給すること、カ単身赴任手当が五万五〇〇〇円となっているが七万円支給されていたのではないか、キ今回の営業所間の異動期間を明らかにすること、ク転勤先から戻った者のうち借家をする者に対する頭金を補助すること、などを求めた具体的申し入れをした(以下「七・二四申し入れ」という。)。しかし、原告は、同年八月一一日、支部の右申し入れはその申し入れ事項がいずれも前記七月一四日付け回答の第2項(労働条件変更の具体的申し入れ)に該当しないと回答し、以後その姿勢を変えなかった。

そのため、組合は、昭和六一年九月八日、基本要求及び七・二四申し入れの前記アないしキを議題とする団体交渉の応諾を求める不当労働行為救済申立てを被告に行った(以下「本件救済申立て」という。)。(以上のうち、本件救済申立ての日を除き当事者間に争いがない。)

(五) 右申立て後の団体交渉

(1)  本件救済申立てについての第二回調査が同年一二月八日行われ、その席で次回調査(昭和六二年二月九日予定)後審問(同年三月四日予定)に入る予定となったが、原告は同年一月二〇日に至り支部に、解決ずみの事項については、本来、原告には、団体交渉を行う法的義務はないが、今回に限りこれによらずに、本件救済申立て事件を議題とする団体交渉を一月二七日に行いたいと申し入れた。

支部は、同月二二日、原告に対し、原告が都労働委員会での決着も辞さないと主張しておきながら右申し入れに至った真意が理解できないので慎重に調査して回答したい、回答は原告指定の日時には間に合わないので、改めて日時を知らせる旨の回答書を渡した。(以上の各事実は当事者間に争いがない。)

(2)  原告は、本件救済申立て事件の第三回調査(同年二月九日)において、支部の一月二二日付け回答は団体交渉を放棄するものであり、救済目的が消滅しているので審問によることなく却下あるいは取り下げの指導をされたい旨の上申書を提出した。

被告が右上申書提出の趣旨を質したところ、原告は、本件救済申立てに関する原告の主張はともかくとして、同申立て書記載の団交事項(基本要求及び七・二四申し入れに関するもの)を議題とする団体交渉を行う旨述べ、組合もこれを了承した。(以上の各事実は当事者間に争いがない。)

(3)  このようにして、団体交渉が同年二月一九日午前九時三〇分から午後零時すぎまで行われた。冒頭、原告は、ア基本要求については昭和五九年九月一二日付け回答及び申入書をもってした回答を変更する考えはなく、現行どおりであり、しかも五・一六協定第2項により解決ずみであること、イ人事異動については、配置転換は業務の必要性から行うものであり、その必要性については配転該当者に直接説明ずみであり、その他については現行どおりであること、を骨子とする昭和六二年二月一九日付け回答書を手交し、これを読み上げた。(以上の事実は当事者間に争いがない。)

次いで、組合の質問に入り、遠山勝美執行委員長が冒頭の挨拶の中で「都労委に上程された問題」と述べたところ、中村部長が「上程とは何だ。何を言っているのかわからん。どういう意味だ。」と発言した。次に、組合は、前記回答書のイの人事異動及び配転基準の事項から入りたいと主張したが、原告は、「なぜアからやらないのか、緊急であると要求した以上アからやれ」と述べ、この順序をめぐって約三〇分の押し問答が続いた末、結局回答書どおりの順序で行われた。(以上のうち約三〇分との点を除き当事者間に争いがない。)

主題に入るにあたり、原告側交渉委員の中村部長が、団体交渉を申し込んだので、これで都労委の件は解決ずみである旨の発言をし、主題に入ってからも同趣旨の発言をした。

ア まず、基本要求事項について、組合は、支部が企業内組合であり、全金では約九割の組合が組合事務所の貸与を受けているなどから、支部に組合事務所や掲示板を貸与するのが当然である旨の意見を述べたが、原告は、全国的な傾向としては組合事務所の貸与は減少傾向にあり、便宜供与をする考えはないとの見解を譲らなかった。

イ 次に、配置転換の業務上の必要性についての質疑、応答がなされたが、組合が具体的な説明を求めても、原告は、会社の活性化を図るためであり、各人の必要性はそれぞれに説明してあり、プライベートなこともあり団交の場では言えないとか、従業員は将棋の駒であり、自由に動かせないと会社は困るなどと言うのみであり、それ以上に具体的な説明をしなかった。

ちなみに、原告は、異動対象者の組合員に対し、配置転換の必要性について具体的な説明をしていない。

ウ 都市手当について、組合は、東京、大阪の住居費、物価が地方に比して高いので支給するよう求めたが、原告は、現行どおりと答えつつ、最初から東京にいる者はどうなのか、この要求はおかしいのではないかなどと述べた(右事実は当事者間に争いがない。)。

エ 単身赴任手当について、組合が、今回の異動対象者であり、大阪から東京へ単身で赴任する組合員の単身赴任手当が五万五〇〇〇円に下げられたことを質問したところ、原告は、単身赴任手当というものは支給していない、そういう制度も名称のものもないとの答えに終始した。そこで、組合は、具体的にある組合員の名前を挙げて単身赴任手当が支給されていると追及したが、中村部長は、比喩として「ここに組合によっては灰皿というものがある。要するに吸殻の入っている容物があるんだ。われわれはこれを灰皿とは言わない。だからその中の吸殻もないんだ。」と述べて、単身赴任手当は支給しないと繰り返した。(右各事実は当事者間に争いがない。)

この応酬の中で、原告が根拠を示すよう求めたので、組合が次回にこれを提出することで終わった。

オ 今回の配置転換の期間について、組合が質問したところ、中村部長が現行どおりと答えたため、組合が更に転勤を命ぜられた場合いつ戻れるかというのは、当人にとっては一番重要なことである、なぜ言えないのか、と追及した(右事実は当事者間に争いがない。)。これに対し、原告は、期間の定めはなく、いつ戻れるかは言えない、戻す必要があるときは戻す、という見解であった。

カ 組合の配置転換に関する基本的基準の定立の求めに対し、中村部長は、迅速性が要求され、また、人事権は会社にあるので、組合と事前協議したり、組合、本人の同意を得るという約款を締結する意思はないと、回答書どおりの発言をした(原告が回答書どおりの発言をしたことは当事者間に争いがない。)。そこで、組合が組合役員の配置転換については組合の同意が当然必要であって原告はその同意を得るべきであると主張したが、原告は、組合三役については事前に通知するという従前の回答を繰り返した(右事実は当事者間に争いがない。)。

キ 最後に、組合が人事異動の規約の明文化を求めたところ、中村部長が、「人事異動の規約」という言葉の意味がわからないと述べつつ、人事異動は会社の権利である、組合から何も言われる筋合いではない旨答えた。そこで、組合が、人事異動は従業員の労働条件の変更であり、当然事前協議事項であると反論したが、同部長は右発言を繰り返すのみであった。(以上の事実は当事者間に争いがない。)

以上のようなやりとりで推移したため、組合は、事前に用意していた「人事異動の規約(案)」(これには人事異動の事前協議、同意約款などとともに、転勤規定として、転勤休暇日数、転勤手当額、住宅手当額、借家に伴う費用の会社負担、引越費用の会社負担、単身赴任手当額等が記載されていた。)を原告に示す機会を失い、最後に同案を原告に手交して、団体交渉を終了した。

(4)  組合は、前項の団体交渉が何ら見るべき内容がないものであったため、同月二四日に再び団体交渉を行うよう申し入れた。しかし、原告がその日は都合が悪いとのことで、結局同月二六日に団体交渉が行われ、同日午前九時三〇分から同一一時すぎまで行われた。(団体交渉の申し入れ及び団体交渉が右のとおり行われたことは当事者間に争いがない。)

この団体交渉においては、前回の経緯もあり、単身赴任手当問題から入り、組合は、前回の団体交渉で指摘した組合員の給与明細書を示し、単身赴任手当が出ていると追及したところ、中村部長が単身赴任手当ではないなどと答えたため、組合が本人がこれは単身赴任手当であると言っている、明細書に記載してあるものは何かと追及したが、同部長は、そんなことはない、そんなことは言えないなどと言うのみであった。結局すれ違いの議論に終わり、原告が本件訴訟で主張しているような別居手当であるとの説明も全くなされなかった。(中村部長の発言を除き当事者間に争いがない。)

また、基本要求事項における便宜供与についても議論となり、組合は、全金でも組合と会社がうまくいっているところでは、こういう組合事務所、掲示板その他を会社は組合に貸与していると説明し、通達も示して便宜供与を求めたが、中村部長は、右通達は組合が弱かった昭和二〇年代、三〇年代のときに、政府が組合を育てるためにしたものであり、また、便宜供与が不当労働行為にならないという趣旨のものである、と反論し、全金は古い、カール・ツアイスの組合は全金の組合だから組合の自主性を尊重する、全金から然るべくそういう問題はやってもらえ、会社はやる気はないなどの発言をするのみで、設置スペース、会議室の利用状況などの具体的な内容に及ぶ議論に入る余地のないまま終わった(基本要求事項における便宜供与について議論となったこと、中村部長が全金は古い、組合の自主性を尊重する、全金からやってもらえなどと発言し、具体的内容に及ぶ議論に入る余地のないまま終わったことは当事者間に争いがない。)。

以上のように、この日の団体交渉も具体的内容に踏み込んでの議論にならなかったため、組合は、都市手当問題、配置転換に関する基準等に議論を及ぼすことなく、この日の団体交渉を終了させた。

(5)  そして、組合は、原告の対応からして労働委員会の結論を待って進展を図る以外に原告の対応を変えることは不可能とみて、被告の判定を求める態度をとった。そして、組合は、同年五月二八日、本件救済申立ての請求する救済の内容に誠意をもって団体交渉に応じなければならないことを追加、変更した。

三  以上認定の事実をもとに、本件命令の適法性について検討する。

1  請求原因2の(一)(主文の誤りとの主張)について

(一)  救済命令の内容は、その主文において明らかにされるのが望ましいが、理由をも併せて救済命令全部をみてその内容を理解することが許されないと解すべきではない。これに反する原告の主張は採用することができない。

(二)  前記認定したところによれば、本件命令は、主文第1項において、組合から改めて「下記の事項を議題とする団体交渉の申し入れがなされた場合は、昭和六〇年五月一六日付協定書をもって解決ずみであるとして団体交渉を拒否してはならず、誠実に団体交渉に応じなければならない。」と命じている(下記の事項とは、(1)昭和六〇年六月一七日付け申し入れにかかる基本要求事項、(2)昭和六一年七月一日付け人事異動中組合員の人事異動に関する事項及び(3)配置転換の基準の定立に関する事項のことである。)が、本件命令の理由とりわけ第2及び第3をみれば、その趣旨が、右基本要求事項については右協定書をもって解決ずみであるとして団体交渉を拒否したこと及び各事項について昭和六二年二月一九日、同月二六日の団体交渉での誠実さを欠いた対応をしたことを不当労働行為であると認定したうえで、原告に右基本要求事項については右のような理由で団体交渉を拒否してはならず、また、各事項について誠実に団体交渉に応じなければならないことを命じていることが明らかであるから、右理由中の判断をも併せて本件命令全部をみれば、主文第1項を右のように基本要求事項については協定ずみであるとして団体交渉を拒否することを禁じ、また、各事項について誠実に団体交渉に応じるよう命じているものと理解することができる。

したがって、本件命令は、右の基本要求以外の事項について原告が五・一六協定により解決ずみであるとして団体交渉を拒否してはいないのに、右のような理由で団体交渉を拒否してはならないと命じているのではないから、原告の主張するような違法はない。

2  同2の(二)(主文と理由の齟齬との主張)について

前判示のとおり、本件命令の主文第1項は、七・二四申し入れ事項(右1(二)の基本要求事項以外の事項)についてまで五・一六協定により解決ずみであるとして団体交渉を拒否してはならないと命じているのではないから、原告の主張はその前提を欠き、理由がない。

3  同2の(三)(五・一六協定により解決ずみであるとの主張)について

(一)  五・一六協定は、組合の昭和六〇年春闘要求に対する原告の回答、団体交渉を経たのちに締結されたものであるが、組合は、右春闘要求に基本要求事項に関する要求を掲げておらず、原告の右回答の後行われた二回の団体交渉においても、組合はもちろん原告も基本要求事項について全く話題にしなかった。

(二)  組合は、同年の春闘要求書に賃金の是正、賃上げ及び諸手当の新設、増額を要求事項として掲げたが、原告は、その前文に明記してあるように同年四月一五日付け回答書をもって組合の右春闘要求に対する回答としたのである。したがって、右回答書による回答事項は、右春闘要求書に記載された事項に限られていると認められるところ、右春闘要求書と右回答書とを照らし合わせてみれば、右回答書第2項の「その他要求事項については現行どおり」とするとは、右春闘要求書における要求のうち回答書の第1項で回答されていない事項(諸手当のうち住宅手当と勤続手当)であることは明らかである。

(三)  右団体交渉の後、組合が原告の回答を受諾する旨の通知をしたことから、原告が前記回答書の前文を削除したのみの協定書を用意し、組合がそれと回答書とを照らし合わせて同一であることを確認したうえ、双方が格別の質問や説明もしないで協定書に調印したものである。そうすると、右協定書は、前記回答書の前文が削除されているとはいえ、右回答書と同一内容のものとして調印されたものと認められる。したがって、五・一六協定書の第2項は、右回答書と同じく、右春闘要求のうち協定書第1項で回答されていない住宅手当と勤務手当に関する規定であると認めるのが相当である。

なお、原告は、住宅手当、勤続手当については、右協定書第1項の支給対象、考課、その他等については従来どおりとするとの規定に含まれていると主張し、証人中村晃も同旨の供述をするが、その文面からいって、第1項は昭和六〇年度昇給を実施するについての規定であるから、支給しないこととする右各手当についてまで規定したものと解することはできず、したがって右主張及び供述は採用することができない。

(四)  原告が組合の基本要求事項が右協定により解決ずみであると主張するようになったのは、昭和六一年七月になってからであり、昭和六〇年一〇月には、原告の大久保人事課長が組合に対し、同月二九日付けの原告の申入書(組合の後記(五)の秋闘要求に対するもの)にある協定ずみ事項とは九・一三協定により継続審議事項になっていることを指すと説明している。

(五)  九・一三協定締結後基本要求事項が取り上げられたのは、昭和五九年一〇月一八日に行われた団体交渉においてであるが、この団体交渉では何の進展もなく終わり、継続審議とする従前の合意を改めたことはない。そして、組合は、昭和六〇年九月一八日の秋闘要求において基本要求の一部を掲げたが、結局、基本要求に関する交渉は行われることなく、昭和六一年六月の組合の申し入れに至っている。

(六)  以上によれば、五・一六協定の第2項に組合の六〇年春闘要求以外の要求項目が含まれていると認めることは到底できないのであって、基本要求が右協定によって解決ずみであるということはできない。証人中村晃は、原告としては右協定の第2項に基本要求に関するものも含むと考えていた旨供述するが、以上に照らしこれを採用することはできない。したがって、本件命令に原告の主張するような違法はなく、原告の主張は理由がない。

4  同2の(四)(被救済利益を欠くとの主張)について

原告は、原告が基本要求について解決ずみであるとの主張をあえて棚上げにして基本要求についての団体交渉に臨んでいるのであって、組合が右要求を打ち切っている点を考え併せれば、本件救済申立ては被救済利益を欠くと主張するが、前記認定のとおり原告は右団体交渉において基本要求に対する回答をしているものの、なお解決ずみであることをも表明しており、また、組合は、要求事項についての団体交渉を一旦打ち切った状態にあるが、これは原告が団体交渉において後記説示のとおり著しく不誠実な対応をしたためであり、組合は求める救済内容に誠実な団体交渉をすることを追加、変更して、その解決を被告に委ねたというものであるから、本件救済申立ての被救済利益がなくなったということはできず、原告の主張は理由がない。

5  同2の(五)(便宜供与が当然といわんばかりの判断をしているとの主張)について

本件命令は、原告の本件救済申立て後の二回の団体交渉での対応が、支部の会社従業員で組織する労働組合としての側面を踏まえたうえで、これに対し便宜供与すべきか否かをも含めた応答を一切していないとしているのであって、原告が必ず組合の要求に応じなければならないと判断しているのではないことは、別紙の本件命令文の説示から明らかである。したがって、これの反する原告の主張は採用することができない。

6  同2の(六)(誠実な団体交渉をしたとの主張)について

(一)  労働組合法七条二号は、使用者が団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止しているが、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合も、右規定により団体交渉の拒否として不当労働行為となると解するのが相当である。このように、使用者には、誠実に団体交渉にあたる義務があり、したがって、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、右のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるものと解すべきである。

以下、右のような見地から本件について検討する。

(二)  原告の本件救済申立てまでの対応についてみるに、原告は、基本要求事項について、当初組合の自主性を尊重し、便宜供与は一切しない、組合三役の配置転換については事前に通知するとの回答をし、団体交渉を経て、九・一三協定により継続審議とすることの合意がなされた後に、組合から基本要求事項に関する要求がなされたのに対し、右と同様の回答をし、更に、五・一六協定締結後は、協定ずみであるとか、前記認定のとおり五・一六協定を基本要求事項についても協定したものとは到底解することができないにもかかわらず、右協定により解決ずみであるとの態度に終始し、その内容に入った交渉を持とうとせず、また、七・二四申し入れについては、それが労働条件にかかわる具体的要求であるにもかかわらず、これを否定して団体交渉に応じようとしなかったのである。

(三)  そこで、組合が右団交拒否に対する救済を求めて本件救済申立てをしたところ、右事件の審査の過程で、原告は、団体交渉に応じる意思を表明し、組合に対し団体交渉の開催を申し出て、その結果二回にわたって組合との間で団体交渉を行った。

(四)  しかるに、原告は、この団体交渉において、基本要求については、冒頭九・一三協定締結前の昭和五九年九月一二日付け回答及び申入書の回答を変更する考えはなく、また、五・一六協定により解決ずみであると表明し、更に、質疑応答において、組合が便宜供与をするところも多く企業内組合である以上便宜供与は当然であると追及しても、全国的には便宜供与をするところは減少している、便宜供与をする考えはないとの見解に終始しており、組合の要求が可能であるかあるいは適切であるかについて真摯に検討しようとしたと認めることはできない。

二回目の団体交渉においても、原告は、全金の考えは古いとか、企業外の全金の自主性を尊重するあるいは全金自身で解決すべきであるなどと主張し、具体的な検討をしようとしなかった。

このように、原告は、便宜供与については、全金は企業外組合であるから行わないとか便宜供与は組合の自主性を尊重する立場から好ましくないとの一般論を述べるにとどまり、支部が産業別組合の一支部という組織形態をとっているとはいえ、それ自体が原告の従業員で組織する一個の労働組合であるにもかかわらず、支部のこのような側面を踏まえたうえで、これに対し便宜供与を認めるべきか否か、認めるとしてどの程度認めるべきかに関する応答を一切しておらず、そのような内容に立ち入った議論をしようともしなかった。

なるほど、使用者の団交応諾義務は、労働組合の要求に対し、これに応じたり譲歩したりする義務まで含むものではないが、前説示のとおり、右要求に応じられないのであれば、その理由を十分説明し納得が得られるよう努力すべきであり、また、使用者は、労働組合に対しその活動のためにする企業の物的施設の利用その他の便宜供与を受忍しなければならない義務を負うものではないが、これらについては義務的団体交渉事項と解するのが相当であるから、労働組合から右のような事項について団体交渉の申し入れがあれば、使用者は、その要求をよく検討し、要求に応じられないのであればその理由を十分説明するなどして納得が得られるよう努力すべきである。原告の団体交渉における前記のような態度は、組合の要求を真摯に受けとめ、これをよく検討したうえ、組合の要求に応じられないことを納得させようとする態度が見られず、誠実性を著しく欠く態度と認められ、不当労働行為であるといわざるをえない。

(五)組合員に対する具体的な人事異動の必要性、期間、異動に伴う労働条件の改善、人事異動の手続(組合との協議や同意)等について組合から要求がなされた場合には、使用者は、人事異動の必要性、配転対象者として選択した理由等について十分な説明をし、組合が要求する労働条件の改善が不可能であるなら、その理由を具体的に説明して組合を説得する試みをなし、人事異動に関する事前協議や同意約款の締結要求が過大であるとするなら社会一般あるいは業界などの実例などを踏まえつつその非を問うなどの努力をする必要があるというべきである。

しかるに、原告は、七・二四申し入れ事項について、配置転換の必要性につき単に企業の活性化のためであるとか、個人の能力等個人的な理由があり、団体交渉の場では言えないと説明するのみで、その具体的な必要性について説明することをせず(個人の能力等個人的な理由があり、団体交渉の場では言えないと言うだけでは不十分である。)、また、単身赴任手当については、組合から給与明細書を示されて説明を求められても、単身赴任手当との記載がない、単身赴任手当は支給してないと言うのみで、現に支給されている手当が何であるかの説明をしようともしなかった。更に、原告は、組合が人事異動に関する一般的な基準の定立を求めたのに対し、人事異動の規約化の意味がわからないと述べつつ、人事異動は会社の権利である、組合から何も言われる筋合いではないと答えるのみであり、内容に入って検討しようともしなかった。人事に関する事項が労働条件その他の待遇に関する事項であり、義務的団体交渉事項であると解すべきであることをも考えると、会社の権利であるとか組合から何も言われる筋合いでないという原告の対応は、合理性を欠くものといわざるをえない。

原告は、都市手当の新設要求に対しては、賃金体系が全社的に同一であるのに、地方から東京への配転対象者のみ優遇することは東京在勤者に対して不平等になる旨反論してはいるが、原告の七・二四申し入れ事項についての右団体交渉での対応は、十分な説明をしなかったり、合理性のある説明をしなかったりなど、誠実さを欠く態度であったというべきである。

(六)  以上のとおり、本件救済申立て後の二回の団体交渉での原告の対応は、全体としてみれば、組合の要求等を真摯に検討し、これに応じられないのであればその理由、根拠を十分説明し、組合を説得しようとの態度がなかったといわざるをえず、団体交渉に誠実に応じたものということはできず、労働組合法七条二号に該当する不当労働行為であると認めるのが相当である。したがって、誠実に団体交渉をし、回答ずみであったり、見解の相違による行きづまりの状態にあるとの原告の主張は理由がなく、本件命令には原告主張の違法はない。

三  以上の次第で、本件命令には原告が主張するような違法はなく、本件命令は適法であって、原告の本訴請求は結局理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内民生)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例